ヨエル書 2:28
「年寄りは夢を見、若い男は幻を見る。」

私はこの句を見た時に “ん?” 何か反対のような気がするな…。そう思いました。でも随分経ってから、樋野興夫氏の「明日この世を去るとしても、今日の花に水をあげなさい」という本の中で、「聖書の中にこんな言葉があります。」と、このヨエル書のみことばを引用していることに気づいたのです。樋野氏は順天堂大学の医学博士で、「がん哲学外来」を開設された方です。著書の中で「幻(Vision)と夢(Dream)の違いは何でしょうか。若者はVisionを持って人生を思い描く。Visionはひとりひとりが一生かけて成し遂げる目標や目的のこと。老人は、自分の人生だけでは到底果しえないような、大きな夢を描く。DreamとはVisionよりもスケールの大きな構想のことです」と書かれていました。

先日あるテレビ番組で、大変感動しました。青森のある漁師さんの話です。漁が暇な時、彼はパチンコに狂います。自分のお金が無くなると妻のお財布から“これももとはオレの稼いだ金なんだから!”と抜いていました。ある日、また抜こうと財布を開くと、“とるな!”の紙切れが。それ以来、彼はパチンコをやめました。

ある日寝そべってテレビを見ていると、フジコ・ヘミングの演奏するラ・カンパネラの映像。彼は飛び立ってテレビにかじりつき“この人は凄い!オレも、絶対、いつか、このカンパネラを弾くんだ!”そう決意しました。もちろん楽譜も読めないしピアノなんて触ったこともないのに。そして奥様に、“オレ、カンパネラ、弾きたい”そういうと、たまたま音大を出ていた奥様が、“音大を出た私でも無理なんだから、無理、死んでも無理”と笑い飛ばされたそうです。
それで彼はもっと決意を強め、譜面が読めないので、その音の箇所に電気がつく電子ピアノを買い、毎日8時間ずつ練習し右手、左手の指に覚えこませました。

そしてピアニストでも難曲であるラ・カンパネラをついに習得したのです。彼の夢は、フジコ・ヘミングにカンパネラを聴いてもらうことでした。
それで、テレビの「あなたの夢、叶えます」という番組に応募し、当選しました。当日、ピアノが2台並んだ部屋で、フジコさんが座っているところに案内されてフジコさんを見た瞬間、彼は泣きました。
そしてフジコさんの前で、見事にカンパネラを弾き遂げました。Bravo!!でした。事情を知っているフジコさんも信じられないご様子でした。彼は実に良い顔と雰囲気を持っている52歳の男性でしたが、フジコさん曰く、「あなたの人柄が音に出ています。そしてあなたのその指は、ピアニストにとても良い!」
漁師をやってきた彼の太い指、大きな手。彼は、「夢というものは、強く願って努力すれば、必ず叶うということを今日知りました」と語っていました。

過去の事柄は、そこから消し去ることも、増し加えることも出来ません。しかし神様は「その代わり、人には、永遠の想いというものを与へられた(伝道者の書3:11)」のです。私は今まで、それは想い出のようなものかなと思っていたけれど、そうではなくて、希望とか夢というものなのだな、と感じました。
私の父も、小学校しか出ておらず、親が亡くなり「三越」に丁稚に出されました。でもその三越にオーケストラがあって、父は音大も出ず音楽教育も受けられなかったのにN響のコンサートマスターにまでなったのです!
神の御業、恵み、これ以外にどんな説明が付けられるだろうか…。

2020 夏 黒柳眞理

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